船舶水素エンジン

造船業界は現在、地球温暖化対策のための「脱炭素化」という大きな変革期にあり、その実現に向けた切り札の一つとして水素エンジン(水素を燃料とする推進システム)の開発が世界的に進められています。

1. 造船業界の現状と課題

日本の造船業界は、高品質な船舶建造技術を持つものの、国際競争が激化しています。

現状

  • 国際競争の激化: 労働コストが安く、大規模な造船所を持つ中国韓国との競争が非常に厳しくなっています。両国は国策として造船業の国産化率向上やシェア拡大を進めています。
  • 手持ち工事量の減少: 世界的な新造船受注量の減少傾向に伴い、日本を含む主要国の手持ち工事量は減少傾向にあります。
  • 技術者の減少: ベテラン技術者の減少による工程設計力の低下など、人材面での課題も深刻です。

課題:脱炭素化への対応

国際海事機関(IMO)は、国際海運分野の温室効果ガス(GHG)排出量を削減する目標を掲げており、造船業界は**「ゼロエミッション船」の開発を急務としています。これが、水素やアンモニア**などの次世代燃料への転換を加速させています。


2. 水素エンジンの開発動向とメリット

水素は、燃焼時や燃料電池として利用する際に二酸化炭素(CO2)を排出しない「究極のクリーンエネルギー」として、船舶の脱炭素化に向けた本命燃料の一つとされています。

水素エンジンのメリット

  • ゼロエミッション(排出ガスゼロ): 燃料として利用する際にCO2を排出しないため、IMOのGHG削減目標達成に貢献します。
  • 騒音・振動の低減: 燃料電池(FC)システムの場合、電気化学反応で発電するため、従来のエンジンに比べて騒音や振動が少なく、乗組員や乗客にとって快適性が向上します。
  • エネルギー自給率向上への貢献: 再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」を利用できれば、化石燃料への依存度を下げられます。

開発動向

日本国内では、政府のグリーンイノベーション基金事業などを活用し、大手メーカーが連携して水素エンジンの開発をリードしています。

  • コンソーシアムによる共同開発:
    • 川崎重工業ヤンマーパワーソリューションジャパンエンジンコーポレーションの3社が協力し、舶用水素二元燃料エンジン(水素とディーゼル燃料を切り替えられるエンジン)の陸上運転試験に成功しています。
    • これは、既存の船舶にも搭載しやすいよう、冗長性を確保するための二元燃料仕様として開発が進められています。
  • 実証運航の計画:
    • これらの企業は、商船三井尾道造船などと連携し、水素燃料エンジン搭載船の建造契約を締結しており、2027年度末の海上試運転を目指しています。
  • タグボートでの実証:
    • 常石造船などは、国内初の水素燃料タグボート(水素混焼エンジン搭載)を進水させるなど、小型船での実用化も進んでいます。

課題

水素燃料の採用には、以下のような技術的・インフラ的な課題があります。

  • 体積効率: 水素は体積あたりのエネルギー密度が重油より低く、燃料タンクが大きくなるため、貨物積載量の減少に繋がる可能性があります。
  • 貯蔵・供給インフラ: 液体水素の製造、貯蔵、海上での供給体制(バンカリング)の整備が国際的に必要不可欠です。
  • 安全性: 水素の漏洩対策や金属劣化への対応など、船内の安全基準の確立が求められています。

造船と水素エンジンの開発は、日本の海事産業が国際競争力を回復し、世界のカーボンニュートラルを牽引するための重要なカギとなっています。


「船の脱炭素化」における水素エンジン関連銘柄は、主に舶用エンジンメーカー造船会社海運会社、そして水素インフラ関連企業の4つの分野に分類されます。

特に、日本の政府系ファンドであるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業における開発コンソーシアムに参加している企業が、この分野の「本命」と見なされています。


船舶用水素エンジン関連の主要銘柄

1. エンジン・システム開発(コア技術)

水素エンジンそのものの開発や、水素燃料を船舶に安全に供給するためのシステム(MHFS: Marine Hydrogen Fuel System)を手掛ける企業です。

銘柄コード会社名主な関与・特徴
7012川崎重工業水素エンジン(中速4ストローク)の開発および**水素燃料供給システム(MHFS)の開発幹事企業。液化水素運搬船の開発にも深く関与。
6016ジャパンエンジンコーポレーション舶用水素エンジン(低速2ストローク)の開発に参加。日本の舶用ディーゼルエンジンの老舗。
6305日立建機建設機械が主力だが、子会社のヤンマーパワーソリューション舶用水素エンジン**(中速4ストローク)の開発に参加。(※注:ヤンマーは非上場。親会社の日立建機を参考銘柄とする場合があるが、直接的な関連は要確認)
7013IHI子会社のIHI原動機アンモニア燃料エンジンの開発に参加しており、次世代燃料エンジン開発の技術基盤を持つ。

2. 海運・造船(実証・導入)

実際に水素エンジン船を建造・発注し、実証運航を担う企業や、船舶を建造する企業です。

銘柄コード会社名主な関与・特徴
9101日本郵船世界的な海運大手。次世代燃料船開発のコンソーシアム幹事に参加。液化水素サプライチェーン構築の共同事業にも参画。
9104商船三井海運大手。水素燃料船の実証運航に向けた基本設計承認(AiP)を取得済み。水素・バイオディーゼルハイブリッド船「HANARIA」の事業にも関与。
9107川崎汽船海運大手。国際液化水素サプライチェーン構築を目指す共同事業に参画。
7004IHI(旧石川島播磨重工業)造船部門は子会社(ジャパンマリンユナイテッド)だが、次世代船舶開発プロジェクトに子会社を通じて関与。
7003三井E&S造船・機械製造大手。次世代燃料船開発プロジェクトに子会社が参加。

3. 水素供給・インフラ

水素燃料の製造や輸送、船舶への供給(バンカリング)といった、サプライチェーン全体を支える企業です。

銘柄コード会社名主な関与・特徴
8001伊藤忠商事アンモニア燃料船開発などのコンソーシアム幹事。燃料供給やインフラ構築の上流に関与。
4088エア・ウォーター水素関連事業に注力。液化水素や燃料供給インフラの技術開発に強み。
4091日本酸素ホールディングス産業ガス大手。水素の製造・供給技術を持つ。
8085岩谷産業水素エネルギーのパイオニア。液化水素の製造・供給インフラで国内トップクラス。川崎重工業と共同で液化水素供給事業に関与。

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